【東方導命樹】エキストラストーリー導入部
*この先は、エンディング以降に係わる強烈なネタバレがあります
クリアしたか諦めたか、そもそもどうでも良い方のみ見てください。
香霖堂――
ちょっと普通じゃない客人しか訪れない店先で、普通じゃない赤と緑の巫女と
普通の黒い魔法使いは、その日全く偶然に顔を合わせた。
魔理沙「偶然だな、お前ら何しに来た?」
早苗「禍公が帰り際に置いて行った百人一首を売り飛ばそうと」
霊夢「倉に押し込めといて、変な霊に憑かれたら困るしね」
魔理沙「実は全く同じ事を考えていた。偶然ではなく運命の巡り合わせだったな」
3人が抱えているのは、禍原命廟が生前に執筆した詩が書かれた、貴重な当時の百人一首である。
残念ながら今時の少女達は、和歌で風流を感じるほど奥ゆかしい趣味は持たない。
霊夢「霖之助さん、入るわよ」
霖之助「うーん、確かここにあった筈だが…」
不在の確認もせず、慣れた調子で無粋に押し入る霊夢と魔理沙。少々困惑した様子で早苗が後に続く。
一方の店主・森近霖之助もまた、来客など気にも留めず、雑多な品々をひっくり返して
ぶつぶつと何かを繰り返している。
物を捨てられない病気は大変だな。魔理沙は心の中で他人事のように呟いた。
魔理沙「今日は何を探してるんだ」
霖之助「ああ、いや、ここに保存しておいた等身大の少女人形が…」
魔理沙「おま…いつの間にそんな性癖が…」
霖之助「そう言えばまだ話していなかったかい? 最近は君達もあまり来てくれないからな」
露骨に引いている霊夢や早苗を全く意に介さず、霖之助は事の顛末を独り事のように語り出した。
等身大で生きているような質感を持つと言うその少女の人形は、湖の畔で妖精達によって発見されたのだそうな。
霖之助「妖精で良かった。これが命蓮寺の妖怪鼠だったら、譲り受けるのに幾らふっかけられていた事か」
早苗「そこまでして等身大の少女の人形が欲しいだなんて…」
霖之助「外の世界の素晴らしい技術が使われているかもしれないだろう。
置きっ放しでも仕方が無いから、思い切って誰か詳しそうな人か妖怪に尋ねよう
そう思って探していたんだけど――」
不意に、早苗の服の懐から電子音声が鳴り響いた。「もしもし、あっ神奈子様――」
間欠泉の異変の際に、八雲紫が用意した遠隔通信機と同じような物を、守矢神社の三柱は
今や独自に開発して所持しているらしい。珍しい獲物を見る人食い妖怪のような霖之助の視線に
霊夢と魔理沙は苦笑いを押し殺した。
早苗「すみませんが私はこれで。導命樹に、歌を歌う見慣れない妖怪が出現したとの事ですので」
屋外に身を翻して足早に飛び去る早苗。百人一首はしっかり置いて行かれている。
導命樹は命廟への返還がとりあえず決まった後、今はまだ守矢神社に仮置きされたままである。
妖怪と聞いては黙ってはいられない。霊夢と魔理沙も互いに見合わせ、札の山をその場に残して後を追った。
霖之助「歌を歌う妖怪ね…ふむ、まさか…」
霖之助は少しの間記憶を辿った。
そして、僅かに頬を緩め、残された百人一首の品定めに取り掛かった。
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